2.FIRST MISSION (1)

   § : ZERO 「2.FIRST MISSION」
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「とにかく、俺はあの野郎だけは絶対に気に入らねえぞ」
 さらに夜も更けた頃。他の連中は各々のねぐらに引き上げ、グルド、セネ、サウロの三人だけになったヴァルハラ店内で、彼らは話し込んでいた。
「生意気だったらありゃしねえぜ。終始人を小馬鹿にってか、見くだすような目つきしやがってよ。セネにゃ悪いが、おまえよくあんな嫌味な野郎と幼馴染みやってたな」
 ギシギシいう椅子に座りこみ、太く逞しい腕を組んで憤然と吐き捨てるグルド。ひどい言われようをしている「セネの幼馴染み」ことイリヤは、「今夜はここに泊まっていって」というセネの提案に頷き、少し疲れたからと、既に奥にある唯一の客室に引き払っていた。当然グルドなどは思い切り嫌な顔をしたが、この店と建物の所有者であるサウロが笑って頷いたことで黙殺された。
「いや、まぁ、あれはあれでけっこう良いとこもあるんだぜ」
 さすがに何かフォローしなければと思ったのかサウロが口を挟んだが、ぎんっ、とグルドは目を三角にしただけだった。
「あぁん? あんな糞ガキを庇いやがるのかおめーは。おめーだって見るなり性悪小僧だか言ってやがったろう」
「……見た瞬間に、俺もいろいろと思い出がフラッシュバックしてね……」
 難しい顔になり、サウロもつい身も蓋もないことを言ってしまった。なまじ頭の回転が良く自分の価値観に正直で、かつ容赦のない性格をした少年の頃のイリヤには、その昔彼も何度となく扱いに手こずらされた記憶があったのだ。
 そもそもの出会いは、スラムの薄暗い路地で行き倒れていた幼い頃のイリヤをセネが見つけた事が始まりである。ろくな人生を歩いてこなかったらしい少年は手負いのようにひどく好戦的で、彼を助けたはずのサウロにさえ何度も噛み付いたものだった。過去を一切話したがらず、誰にも心を開こうとせず。正直セネがいなかったら、気は長い方だと自負しているサウロでさえ、少年に関わるのを放棄していたかもしれない。
「ほれみろ。どうせあんなガキ、元ハイエンターだか何だか知らねえがどうせロクなもんじゃねえよ。なあ、セネ?」
「うん……」
 カウンター席に座って一人頬杖をついていたセネが、相槌ともつかない生返事をした。何事か考え込んでいるらしく、その様子は完全に上の空だ。
「とにかく、だ!」
 グルドはそのセネの様子に、不機嫌もあらわに一層声を大きくした。
「俺はあのガキだけは絶対我慢ならねえからな! 明日になったらさっさと叩き出すぜ。いいな、セネ!」
「ねえ、グルド。提案があるんだけど」
 グルドの言葉などまったく聞いていなかったらしいセネが、丸い回転椅子ごとくるりと振り返った。節電のため電球は消され、テーブルに置かれたカンテラの明かりが、露出高めな脚の線を綺麗に照らし出していた。
「あの計画、このまま続行しましょう」
 真摯な光を放つ眼差しで、セネは言った。
「あ?」
 息巻いていたのとまったく関係ない話を切り出されて、グルドは拍子抜けしたようにぽかんと口を開けた。
「だから。カートが降りて穴が開いた分のフォローを、イリヤに頼むのよ」
「なッ……」
「お。そいつは名案」
 サウロが椅子を引いて逆向きに腰を下ろし、会話に参加してきた。目ん玉を剥いてグルドが叫んだ。
「なにィ!? てめえら!」
「だってさ、よく考えてみてよグルド」
 セネが噛んで含めるように言う。
「計画はいつでも可能ってわけじゃないわ。むしろこの機会を逃したら、こんな好機は二度とないかもしれない。あたし達の武装は貧弱だもの、あたし達自身でっていうのは相当な賭けになっちゃうのよ。頼れる手が必要だわ。かといって、今から本当に信頼できる傭兵を探すなんて無理がある」
「見た限り武器は相当使い込まれてたし、武装状態もしっかりしてたな」
 サウロもそこに続けた。眼鏡の奥のその瞳には、私情を挟まない冷静な色があった。
「身のこなしからしても、あれは傭兵としてはかなり腕は立つと思うぜ。子供の頃を見てるから、あいつが馬鹿じゃないってことも分かる」
「うんうん」
 我が意を得たりとばかりに、セネも続けた。
「それにイリヤは、保紡とハイエンターに愛想が尽きたって言ってた。アシッドのメンバーに、っていうのは無理があるけど、傭兵でっていう形でなら頷いてくれるんじゃないかな?」
「内部との連携が取れない以上は、護衛がどうしたって必要になるしな。要の位置に信頼できるガード役を配置できるなら、作戦担当兼サブリーダーである俺としては非常にありがたい。何より」
「イリヤなら裏切らない」
 言葉の先を引き取るように言ったセネに、サウロも頷いた。
「同感。あいつはまぁ、あの通りちょっと性格に難ありだけど、一度約束をかわせばそれを裏切るような奴じゃない……と、俺は思うね。正直なところ、そのへんの有象無象の傭兵連中にコトを頼むのはおっかないな。腕は勿論だけど、絶対に裏切らないかっていう点で。だから、俺はセネに賛成だ。どうする、リーダー?」
 立て板に水状態にあれこれ並べ立てられ、もともと喋ることはそれほど得意ではないため言葉を挟めなかったグルドは、セネとサウロの視線を受けて、しばしパクパクと大きな口を開閉させていた。
 やがて。
「……あああ、ちくしょう!」
 グルドはダシンと床を踏み鳴らし、丸太のような両腕を振り回して怒鳴った。サウロとセネは、風を切る音さえ聞こえるそれに、慌てて首を縮めた。
「まぁああたテメーらはそうやって!! うちのブレーン二人にそうどわーっと並べられちゃあ、俺が何反論できるってんだよ! ああ、そうだよ、おめえらが正しいよ! 私情で武器を選んじゃ勝てる戦争にも勝てっこねえなんてのは、俺だってよーく分かってるんだよ!! けどよう、俺は、俺は……俺はあっ!」
「うるせええええっ!!」
 グルドの叫びの末尾に重なるように、突然奥の部屋から薄っぺらい壁板を突き破るような罵声が轟いた。半分寝ぼけたような、いまいち呂律(ろれつ)のまわっていないイリヤの声。
「寝られやしねえ、少し静かにしろっ!!」
 それっきりシーンとなる。突っ立っているグルドが握り拳をふるふると震わせ、こめかみに青筋を何本も浮かび上がらせて唸った。
「あ、あの野郎だけは……俺は……」
 セネとサウロは、顔を見合わせて、ふうっと息をついた。サウロがやれやれというように呟いた。
「……なんてマの悪い奴」


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